〈新・学歴社会〉ブランド大の小学校続々

有名私大の系列小学校
■特徴は―道草・漢字...個性豊かな教育

 「目の錯覚を使ったアートってわくわくしませんか」

 京都市の同志社小。10月、4年生の教室で、女子児童が前に出てこう話し、黒板に絵を描いた。ライオン、檻(おり)、その間にバツ印。バツに目を近づけて見続けると、ライオンが檻に入ったように見えるという。同級生がノートに描き写して数秒後、「うわぁ」「本当だー」と声があがった。女子児童はだまし絵のおもしろさを語った。

 この科目は「道草」。いろんなことに興味をもち、挑戦する気持ちや問題を解決する力を育むのが狙いだ。各学年で週2~5コマあり、内容や進め方はクラスに任されている。鈴木直人校長は「受験にとらわれない一貫教育だからこそできる」と話す。

 やはり京都市にある立命館小は漢字学習に力を入れる。10月、1年生の国語の授業では、児童が漢字1字が書かれたカード14枚を机に並べ、言葉になるようにつないだ。花→見(花見)→学(見学)......。5分ほどして先生が「全部つながった人」と聞くと、半数以上が手を挙げた。07年度までの実績では、日本漢字能力検定(10~6級)を受けた現2~5年生の合格率は100%だったという。

 立命館は小学校から高校まで12年間の課程を4・4・4に分けている。反復学習の効果がとくに期待できる最初の4年で基礎の徹底を図る。

 1874年開校の慶応義塾幼稚舎(東京都渋谷区)は、卒業するまでに1千メートルを泳ぎ切れるよう練習する「塾生皆泳(かい・えい)」が伝統だ。山崎元(はじめ)・常任理事は「人間は泳げないところから始まり、周りの支援を得ながら努力し、長く泳げるようになる。一貫教育だから、じっくりと到達の過程と成長をみられる」。

 個性ある一貫教育を売りものにした有力私大の系列小が近年、東京や関西など都市部で次々と生まれている。早稲田は02年、同志社と立命館は06年、関西学院と南山は08年に開設。さらに関西も10年、慶応と同志社の2校目も11年にできる予定だ。

■なぜ新設―人材育て「大学の名声向上を」

 なぜ有力私大の系列小の開設が続くのか。少子化時代、大学の入学者を早いうちに確保する「囲い込みだ」との見方もあるが、各校は「それならばもっと定員を増やす」などと否定する。

 立命館の浮田恭子・一貫教育部長は「数学オリンピックで活躍するような生徒を育て、ひいては立命館大の卒業生から、ノーベル賞受賞者など世界にはばたく逸材を生みだしたい」と話す。

 早稲田実業学校初等部(東京都国分寺市)の多宇邦雄校長は「小中高大の一体感で『進取の精神』といった早稲田スピリッツを育み、早大の中核になる人材を育てたい」。関西学院初等部(兵庫県宝塚市)の磯貝暁成・初等部長は「教科教育で学びの縦糸を追いかけるだけでなく、それがなぜかを考える横糸も大事にし、大学を支えて引っ張る存在になってほしい」と言う。

 共通するのは、大学の地位を確たるものにするため、大学の価値を高めてくれる秀逸な人材を少数精鋭で育てたいという思いだ。

 ブランド大への切符が6歳でほぼ手に入るうえ、大学を出るまで16年間、高い水準の教育が期待できるとあって、各校とも授業料などに年間100万円前後かかるにもかかわらず、人気は高い。公表されている08年度の志願倍率は、南山大付属小(名古屋市)が5倍、早実初等部が14倍、慶応幼稚舎が男子14倍、女子23倍。非公表だが、同志社小と立命館小は2~3倍、関西学院初等部は6倍とされる。

 「関関同立」と呼ばれる有力4私大がそろって小学校開設に動いた関西では、幼稚園児による私立小の受験市場が「2倍になった」(塾関係者)と言われ、9月には首都圏の小学受験大手の塾が関西初の教室を京都市に開いた。

 「道草」の科目がある同志社小に今春、長男が合格した近森智香子さん(36)一家は名古屋市から京都市に引っ越した。「宿題や塾の勉強にしばられ、子どもらしい興味をなくしてほしくない。自分で『?』を探せる子になってほしい。名古屋で会社を営む夫は新幹線で通勤している。

■残る不安―16年一貫、親が決める覚悟は

 私大の系列小か地元の公立小か。大阪府池田市の会社員の女性(31)はこの春、迷った末に、一人息子を公立小に入学させた。

 祖父母から私大の系列小を勧められ、募集要項をじっくり読んだ。大学まであがれることや、いじめへの対応などで安心できそうなのは、いいなと思った。ただ、比較的恵まれた家庭の子が集まる小学校が、壁で囲まれた富裕層の住宅街「ゲーテッドコミュニティー」のようにも感じられた。結局、「いろんな子がいる中でもまれたほうがたくましくなる。将来つまずいたとき、多様な経験が生きる」と考え、公立を選んだ。

 安田教育研究所(東京)の安田理(おさむ)代表は、小学校から大学までの一貫教育は個性が似た集団をつくりやすいと指摘。「親の経済力、自分らの学力と、同質の心地よさに慣れた中でも異質なものへの寛容さ、多様な社会で生きる力を育めるか。系列校の課題だ」と話す。また、系列校に進むことで経験できなくなる受験について「挫折や試練の厳しさを教えてくれる機会でもあるのだが」と語る。

 関西の小学受験大手「能開プレスクール」(本社・大阪市)の責任者、喜多輝美さんによると、入学後、「思っていた教育と違う」「うちの子と合わない」などと不満をもらす親もいるという。だから、受験前の面談では「思い通りでないことが必ず出てくる」と念押ししている。

 有力私大の系列小受験は、大学卒業まで16年間の進路を親が決めるに等しい。途中の変更は容易ではない。親には、その覚悟が求められる。
           

                                                                                    [2008年11月25日]

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